人気ブログランキング | 話題のタグを見る

2010アートのマネージメントについて

私が興味を持ったのは、非営利組織によるアート・マネージメントである。
アート・マネージメントとは、広義には、芸術家などの創造性、それを享受するオーディエンスやコミュニティ、およびそれらを支える資本、という芸術文化活動をめぐる要素間それぞれの連携、接続を機能させるシステム全般を指す。この用語の歴史はまだ浅く日本におけるそれは90年代に入ってから口にされるようになった。
アート・マネージメントの在り方は各国の政治、伝統により芸術文化機関の組織・運営制度が異なり、また、各地の文化状況・政治によって多様に理解されているが、日本の社会における芸術文化は私的な趣味か消費的な娯楽とみられる傾向が未だ強く、欧米のそれとは成熟の度合いを異にしているのが現状だろう。
基本的にアート・マネージメントは利益以外の固有な価値の実現を追求するためにつくられた非営利組織(NPO)のマネージメントのことである。

2007年に横浜市旧桜木町・横浜間の高架下壁面において主催、横浜市・協賛、株式会社ナイキジャパン・協力、NPO法人KOMPOSITIONによる「桜木町ON THE WALL」というイベントが実施された。

横浜市が文化・芸術の発展を期待し、国内有数のストリートアートで知られる、桜木町の旧東横線高架下に連なる約1kmの巨大壁面を、壁画による一大アート空間として活用する、全壁面を合法的な壁画キャンパスとして開放する実験的イベントである。
イベント参加者はアマからプロまで、小学生から50代まで、地元横浜から海外(海外・LA等)まで、幅広いアーティストによりグラフィティを含む80組弱のアーティストが参加して描き替え、巨大な屋外ギャラリーを生み出した。
グラフィティは1970年代にニューヨークで、スプレーやフェルトペンなどを使い壁や電車などに落書きをすることから始まり1980年代に入ってから、ごく少数のグラフィティ行為者が前衛芸術家として持て囃されるようになったが、公園、橋、建物、地下鉄(列車)、窓などに描かれるグラフィティの多くは、所有者に許可を取っていない場合が多く、許可がない場合は器物損壊にあたる犯罪行為である。日本に限らず世界各国で社会問題となっている(フリー百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」)側面をもっており、当団体はそういった一般的な認知度の低いジャンルであるストリートアートや現代アートにも光をあて、さまざまな表現者を支援し、国内のアート支援をすすめる点で、実験的であり新しい形であるといえる。

私は「桜木町ON THE WALL」にアーティストとして参加をした。
一般市民の通行する公道での実施で駅へ向かう道でもあったことから普段アートというものに馴染みのない多くの人々の目にも触れる機会があり、また、アーティストとしても幅広い年齢層の市民の方々とコミュニケーションをとる事ができた。
アーティスト同士も種々様々なジャンルの表現者が集まっており、一言に壁画といっても、表現技法の幅が広く勉強になった。
既存の枠のなかでは発揮できないモチベーション・才能を持った人々や、まだ広く世間には知られていないアートのジャンルを発見し、参加させる事は少数派のアートを見たいという享受者のニーズをも満たすとともに社会に根付かせる活動でもあり結果的に様々な市民へのアプローチにつながったに違いない。

NPO法人KOMPOSITION(以下KOMPOSITION)は、若者の健全化及び社会教育に関する事業を行うと同時に、若者の権利拡大及び活動支援に関する事業を推進することにより、健やかにして活力ある若者文化の創出を促進することで、社会全体の利益増進に寄与することを社会的ニーズと捉えその充足の為に様々なイベントを実施している。
特に、落書きとして扱われがちなジャンルのアートをオーナーからの提供によるビルの壁にアート作品のキャンバスとして制作・展示する活動等の「リーガルウォール」は、2004年から企画運営され現在では芸術活動としての認知度に大いに貢献している。街の落書きをボランティアで消しキャンバスとして使用する事により多くの絵描きにチャンスを提供・支援し、街が絵で彩られるという美観維持の効果と壁画制作をつうじて新たな人と人との交流がうまれるという社会の文化的ニーズをも満たす効果的なサービスといえる。

新しい分野で活動し、自分の表現を突き詰めることにストイックな表現者に場や機会を提供するという理念と、常に自分たちの身近なところから始めるというKOMPOSITIONの姿勢と横浜市の理解・NIKEの支援によって芸術文化の普及というサービスが成立し得たわけであるが、
芸術とは、刻一刻と時代とともに変化していく生き物のような性質をもっているが故に既存の価値のみならず企業と非営利組織が常に芸術文化に対して鋭いアンテナをはり、芸術と社会の出会いを演出することによって社会の理解と支援を獲得し、芸術文化が市民社会の中で社会的なポジションを得るとともに、より高い水準へ向かうようなマネジメントをするべきである。

参考
横浜市都市整備局http://www.city.yokohama.jp/me/toshi/toshiko/atochi/sotw.html
NPO法人 KOMPOSITION (コンポジション)http://komposition.org/

by artkzr | 2010-05-03 15:56 | 考察