2010古代美術について

古代美術では、人体を表現する場合、どのような形や手法を選んだのだろうか?
1)エジプト美術
題名「ラー・へテプとネフェルトの像」
制作年代、第4王朝、前2600年頃
所蔵美術館、カイロ美術館
素材石灰岩、(彩色)目の部分、水晶・黒石
カノンは身体の中心を通る正中線に対してほぼ左右対称に各部が配置されており、座像は膝に両手を置いて表現される。幾何学的な肉体構成と写実的な頭部の共存が特徴である。
この時代の埋葬は肉体のミイラ化に加え、ミイラが破損しても魂を宿す役目を持ち、永遠の生命を確実にするために彫像がつくられた。彫像が墓主に似ていることが求められたため、写実的な肖像彫刻である。
人体のプロポーションを定めたカノンはギリシャのアルカイック期へと受け継がれて行く。
水晶と黒石を使用した目の力が印象的でリアリティがある。
特にネフェルトは宝石や服飾も洗練されており透き通るような白い肌が美しく女性らしい。
2)メソポタミア美術
題名「信者の小立像」
制作年代、紀元前2700年頃
所蔵美術館、バグダッド、イラク博物館
素材石、目の部分、貝と黒い石
大きく見開いた目と、身体は円柱型で、腕や足は単純な形にデフォルメされている。
都市文明の進歩への一歩を踏み出したこの時代は宗教が最初から主要な役割を担っていた。古代の神々は人類にとって恐ろしい力の持ち主で、鎮められなければならない存在であったため、人々が死した後も代わりに祈り続けてもらうために聖堂内に信者の礼拝像を置いた。
この時代はエジプト美術の作品のような幾何学的な秩序や写実性は影を潜め簡略化され、デフォルメされた大きく見開いた目が印象深い。恐るべき偉大な神の前になす術もなく立ち尽くす小さな人間の存在が見て取れる。
3)エーゲ美術
題名「蛇を持つ女神」
制作年代、紀元前1550年頃
所蔵美術館、ヘラクリオン考古博物館
素材、象牙
階段状のドレーパリーをもつロングスカートの上に前掛けをし、胸をあらわにしたこの服装は、ミノスの宮廷の典型的なモードであったと考えられ、祭礼に用いられていたものと考えられる
それ以前の時代の慣習として受け継がれる厳格な様式はみられない。
エーゲ美術は、オリエント美術・他の文明との交流をはかりながら発展し、海洋民俗特有の開放性をもっている。この小立像は闊達で動的であり、また女性的な優雅さがある。
4)古代ギリシャ
題名「クニドスのアフロディテ」
制作年代、紀元前340年頃ローマ時代の復刻
所蔵美術館、ルーブル美術館
素材、大理石
オリジナルと複製が多くあるが、恥じらいのヴィーナス型とも呼ばれ、右手で陰部を隠しているのが特徴である。ここから派生した型(胸を手で隠すなどのポーズをしているもの)として、メディチ家のヴィーナス (Venus de' Medici) やカピトリーノのヴィーナス (Capitoline Venus) がある。
オリエントに近かったクニドスの人達は、オリエント的な神々に回帰した。オリエントでは、裸の女神は、子孫の繁栄や作物の豊作をもたらすものと信じられていたがこれまで全裸の女神像というのはなく、芸術上の革命といえる。人々がより洗練された完成度を求めるにつれ、人体の強健さよりも美しさや官能性は高められ、その表現は女性像に大きな影響を与えたのである。ギリシャ・ローマの古代の芸術を手本とする古典主義は、西欧美術の伝統のひとつとなっていく。また、ギリシャ美術に関する知識は、鑑識眼を発達させローマ人はギリシャ彫刻の収集を行う。その結果、ギリシャの原作が稀少になるが、原作の模索の需要が高まり、今日人類のギリシャ美術の知識の基礎をなしている。
この時代の彫刻の人体表現は古典期のコントラポストを継承しているものの人体演出はくつろいでいるようであり、従来の厳格な表現に代わり官能性が高い。
大きな躍動表現はないにも関わらず永続的な動きの中のひとこまのように自然で、優雅な動きの一瞬をとらえている動表現であると感じる。
この女神像は、小アジアのギリシャ領クニドスの聖域に捧げるためにつくられたものである。
5)エトルリアとローマ美術
題名「プリマ・ポルタのアウグストゥス像」
制作年代、紀元前20年頃
所蔵美術館、ローマ、バティカーノ美術館
素材、大理石
この像はポリュクレイトスのドリュフォロス像を模している。
ローマの皇帝の、平和を維持するための軍事的権力の強調のために、視覚的系像を創出することを重要としていたプロパカンダ芸術でもある。
皇帝を死後神格化するという伝統がここからはじまりローマの宗教は自らの先祖の業績を崇拝することに端を発しているため理想化された肖像よりも写実を好んだために、写実的な肖像の伝統が確立された。
政治的権力を示すための意図を持つ像としての厳格で高圧的な雰囲気が微塵も感じられず、穏やかで寛容なイメージの方が強い。
それは従来の系像感を脱したいわゆるローマ的価値観の表現の1つといえるのではないか。


参考文献「世界美術大全集第3巻」友部直、水田徹ほか、小学館、1997年。「世界美術史」メアリー・ホリングスワース、木島俊介訳、中央公論社、1994年。「NHKルーブル美術館2」監修高階秀爾、1985年
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by artkzr | 2010-06-09 18:01 | 考察