フィンセント・ファン・ゴッホ「自画像」

1780年から1980年までの間に制作された西洋美術の作品、国立新美術館企画展示室2Eにて2010年5月26日から8月16日まで行われた「オルセー美術館展2010・ポスト印象派」に展示された、フィンセント・ファン・ゴッホ「自画像」、1887年、油彩・カンヴァス、について実際に鑑賞した上で造形的な特質について具体的に考察をする。
印象派の筆触分割に影響を受けたタッチは独特に長く引き伸ばされ、うねり、顔面には、赤と緑で大胆なアクセントが添えられて、表現主義的である。
大胆で荒々しい筆触による形態表現が、綿密で繊細な計算によって構成されており、印象派風の明るく豊かな色彩描写はゴッホ特有の表現である。
自画像が配置されている中央部分の背景は人物を中心に渦を巻くような同系色のリズミカルな筆跡が残っており、自画像の顔部分に視線が誘導されるようだ。
全体的に背景部分の渦巻きを含め絵の具を塗っているというよりはのせているといった印象で、部位によって多様な形態表現が施されている。中心から外に向かうにつれ同系色の背景は求心的な渦巻きの筆跡から外に向かって拡散している。ストロークを変えることによって視界の幅を広げている。
背景に実景は描かれておらず色と線と形のみによって表現することでヴィンセント・ヴァン・ゴッホが自分という対象を凝視しその姿や性格、内面を描くだけでなく、絵画の可能性を追求する自画像へ取り組んだ姿勢を鑑賞者が追体験できる。
自分を見据える真摯な眼差しが印象的であり、目の陰影部分に施された緑色の絵の具は一見唐突な印象を受けるが、肌の色と対比すると補色になっており、髪の毛や髭、シャツの陰影部分にバランスよくとけ込んでいる。
他にも肌の色や髭の表現にみられる多様な色数の配置が自然に調和している。迷いのない太い線で描かれていることも印象的だ。
また、背景色との関連性も感じられる。背景と衣装の色が同系色にまとめられているのでなおさら顔と髭が引き立てられ印象深い。
衣装は背景と同系色でまとめられてはいるが、筆触はそれぞれ異なっておりバラエティに富んでいる。
例えば、衣服部分の絵の具は顔に比べるとややうす付きであり、混色により多少くすんだ印象をうけるが、彩りは淡く水彩画のようでもある。繊維やしわの流れにそって描かれた線は肌の色に呼応している。
全体的に紺に近い色がしめているので重くなりがちな印象だが、中心部分のネクタイの赤部分は顔の赤と呼応し、外側に向かうにつれ肌の明るい部分へとグラデーションになっており中心から外側へと視線が解放的になっていく。
一方、顔や中心部分に近い背景などには視線を誘導されるような筆触が特徴的で、背景とのメリハリがある。
特に画面手前部分、鼻・シャツの襟などは特に絵の具を厚く盛り上げて塗っているので遠近感が感じられる上に、顔・衣服・背景との断絶がはっきりと強調されている。
襟の下にも同様の調子で盛り上げているところに、ほぼ真ん中にある断絶の襟の存在の緊張感を分散させてくれる効果を感じる。
同色の濃さを変え、額と鼻にいれることによりそれぞれの独立した要素が関連性を持ち、とけ合っている。
画面全体を通して、それら色使いのバランス表現が見事に調和している。
奥の画面では溶き油などを使用したような滑らかな線が求心的、もしくは放射的にぬられている。
放射の先には髪や顔に使用されている黄色系の色が淡く配置されているので背景が画面以上に広がりをもっているように感じ開放的である。
手前部分も同様に外套の生地は滑らかな質感を醸しており上にのせられた柄のかすれた筆触が背景との輪郭の境となるアクセントになっている。
ストロークも繊維の流れにそって、もしくは重心にそって向きを変えて変化に富んでいる。
顔の輪郭は衣服同様ではっきりとは施されていないが、背景から塗った絵の具で決めている部分は衣服の輪郭線とのはっきりとした違いであり、輪郭線はなくとも両者とも手前にあることがわかるが背景色を左耳部分との境界にしっかりと置くことで顔の部分が特に強調されて遠近表現にもなっている。
背景・顔・衣服と、様々な筆触表現を試みており躍動感や無限性、絵の奥行きを感じさせる。
多様な色数もアクセントとして使用される色それぞれに関連性があるため、結果として1つの絵としての調和をつくっている。
ばらばらになりがちなたくさんの色と筆触を絶妙で精緻なバランス感覚によってまとめあげているのだ。

参考文献、「ゴッホ自画像の告白」、編集・訳木下長宏、1999年、二玄社、「ポスト印象派ビジュアル美術館」、コリンウィギンズ、1994年、同朋舎出版
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by artkzr | 2010-07-26 14:26 | 考察