ピクトリアリズムからグラフジャーナリズムまで覚え書き

すべての映像は光と影からなり、その、「写真」のテクノロジーの萌芽は紀元前までさかのぼる。
カメラ・オブスクラは17世紀の「光と影の大いなる術」の中で遠近法の研究途上で新奇な視覚現象のひとつとして言及されており、実用化されるようになると多くの画家たちが作品制作の補助用具として「新奇な視覚現象」を絵画表現に取り込むようになった。
1840年代後半から50年代初めにかけてのカロタイプを用いた風景や建築物などの主題のアプローチを担った主だった写真家たちは、画家活動から転身してきた例が多く見られ、画家でなかった少数の人々でも絵画と緊密な接触関係にあった。
他方「1859年のサロン」という批評文の中でシャルル・ボードレールは写真術を「才能に恵まれないすべての画家たちの避難所」とし、「写真は科学と芸術の召使いという本来の義務に立ち戻らなければならない」という意見を述べており、当時の写真術の社会的地位の賛否がうかがえる。
コロジオン、アルビュメン法の普及とともに、富裕層のアマチュアによる肖像の探求で創意に富む例が19世紀後半に展開され、寓意的な主題設定による人物の演出写真や合成印画による「写真における絵画的効果」はアマチュア層に広く影響を及ぼした。
さらにゼラチン乾板の一般化とともにアート・フォトグラフィを志向する写真活動は19世紀末にピクトリアリズム(絵画主義)として立ち現れ、写真芸術運動は広がりをみせていった。
セザンヌやピカソ、ユトリロやアンリ・ルソーといった画家たちも写真をもとにした制作を行っているが、写真術の持つきわめて現実的で俯瞰的表現を絵にあてはめる場合、縮寸のむずかしさとの葛藤があった。
それは遠近法による空間構成の数学的な正確さが人間の視覚器官による調節可能な遠近法的な眺めと、まれにしか一致しないことによる。
しかし遠近法を徹底させることが芸術の質を高めることにはならないという事実に、写真術と絵画表現の根本的な質の相違がうかがえる。
因襲的な画家たちは、写真をまる写し用のお手本として用立てたが、実験的な写真と絶えず接触し、今まで見えなかったものを見えるものにする可能性を求めたのは印象派の画家たちであった。
写真に写実性という存在意義を脅かされた絵画が、独自の領域を見出した印象派の誕生である。
絵画と写真は互いに影響し合い、互いを意識しつつそれぞれの「性格」が形作られていったのである。
例えばウジェーヌ・アジェの19世紀末から20世紀初頭にかけてのパリの街並みの記録は当初、画家の「美術作品のための資料」であったが、マン・レイに見出され写真作品に昇華した。
さらに1919年にドイツのバウハウスに起こった新興写真運動は、世界の写真界を刺激し絵画の後を追うことをやめた新しい写真表現が始まったのである。
それは、写真本来の特質を再認識しようとしたもので、写真の記録性、瞬間の固定、精密描写、動感の表現、諧調の表現、遠近感の解放・誇張、視覚の延長、アングルの自由などを大胆に実験したカメラの目で見た新しい展開だった。
アメリカでは1920年代から30年代にかけて絵画や絵画的写真とは一線を画する、写真芸術の独自の可能性が優秀な写真家たちによって追求され拡大されていく。
ライカに代表される小型カメラと高感度フィルムの普及によってありのままの戦争が写真雑誌を通じて報道されるようになると、写真は芸術とジャーナリズムを強く結びつけるように働いた。
戦争報道写真が全盛期を迎え、個の視覚が社会で重要な意味を持つようになると、シュルレアリスムなどの現代美術に精通していたアンリ・カルティエ・ブレッソンは報道の為の写真ではなく、自分の関心に従って被写体を求め、写真に芸術としての品位と尊厳を与えた。
第二次世界大戦後の大学レヴェルの教育機関での写真教育により、享受者である新世代の写真家にとって写真が芸術手段であることは自明のものとなり、絵画など他の美術表現との融合が進んだのである。
1940年にはニューヨーク写真美術館に写真部門が発足し写真を現代美術の中に根づかせ、権威を高める役割を果たしている。
絵画と写真は密接にかかわり合いながらも似て非なるものであり、絵画の場合、技量の違いはもとより画家が眼に映る対象の何を見、何を見ないかという概念の作用による選別の違いが介在することで、画家たちが同一の対象を同じ位置から見て自分の手を使って写実的に描いても、生み出される画像はそれぞれ異なったものとなるが、写真はカメラを使って印画紙を感光させ作品を生み出すため、限りなく似た作品があっても本質的には記録である。
しかしその撮影の対象や撮影方法、カメラアングルや演出、現像や焼き付け技術、完成後の加工などによって作品は変化し、表現性が加味される。
絵画より瞬間を捉えることができ、リアルさも優れている。
芸術的表現の一つとして、見る人に撮影者と同じような臨場感を与える効果ももっており、絵画に比べて再現力の客観性が高いことを特徴としてあげられる。


参考文献、「世界写真史」、飯沢耕太郎、2004年、美術出版社、「写真と芸術、接触・影響・成果」、オットー・シュテルツァー、1974年、フィルムアート社、
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by artkzr | 2010-08-06 14:35 | 考察