美術の著作物の展示にともなう複製について

美術の著作物の展示にともなう複製(展示に添えるパンフレットなど)について「フジタ展カタログ事件(東京地裁1989年10月6日判決昭和62年(ワ)第1744号著作権侵害差止等請求事件)」の判例を考え自分の見解を述べます。

本件は被告Yが、レオナール・フジタ画伯の未亡人であり同画伯の著作物の著作権を相続している原告Xの権利を侵害するものであるとし、本件書籍差し止め等を請求した事件です。
本件著作物の著作権者であり原作品の所有者Xから、本件著作物をその原作品により公に展示すること(25条)について同意を得て展覧会を開催(45条)しているYの、許容されている著作権法第47条のとらえかたが「著作権者の利益を不当に害することとなるから許されない」(註:井上由里子「展覧会のカタログへの作品掲載—レオナール・フジタ展事件」別冊ジュリスト著作権判例百選NO.157(2001))とされたものです。

著作権法47条の権利とは「これらの原作品の展示の許諾を得た者が、観覧者のための解説・紹介を目的とする小冊子に無償で複製することができ」(註:志田陽子『新版表現活動と法』武蔵野美術大学出版局(2009))、「上記小冊子を譲渡することもできる」(註:岡村久道『著作権法』株式会社商事法務(2010))としたものです。

複製とは「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製すること(著作2条1項15号)」(註:高林龍『標準著作権法』株式会社有斐閣(2010))であり、再製の定義は「既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるもの」(註:同上)、すなわち「依拠性」と「同一性」を満たすものをさします。
47条は、45条とともに著作権者の利益と展示を行う者の利益の調整と、原作品の円滑な流通を図ろうとするためのものですが、Yの複製の態様が無償で複製できる範囲を超えていたことに問題がありました。

無償で複製することが可能な「小冊子」の概念は、社会環境の変化、観覧者の要求等によって変わるものですが「解説・紹介を目的」とし、著作物の資料としての要素が多く市場で取引される価値に満たない規格のものとされます。
本件書籍の構成において掲載されているものは本展覧会で展示されている作品および解説・紹介が主体であるものの、観覧者が鑑賞性のある「小冊子」を持ち帰り「画集」のように鑑賞することができる、すなわち規格の面で観賞用の書籍と異なるところがないものであり、47条の解釈とする「画集の出版は、美術の著作物の複製権に基づき著作権者が利益を得る重要な機会」(註:井上由里子、同上)への影響が著作権者に及ぶ可能性があるとされました。

絵画や彫刻などの美術の著作物は原作品の鑑賞に価値があるとする特質のために著作権者には25条が与えられています。
その展示の同意を得た者が、展覧会の開催にあたり観覧者の鑑賞のために展示作品の解説をするためのカタログを発行することは通例であり、展覧会を成功させるための一助になります。
両者の利益を成立させるための「小冊子」ですから、著作権者の権利を侵害しない程度にすべきであり、無償で複製するための必要最低限の手段は、複製の質が低くても展示作品と解説の関係を視覚的に明らかにすることであり、目的は達成されるといいえます。

Yは47条に基づき「書籍の構成において著作物の解説が主体となっているか、又は著作物に関する資料的要素が多」(註:井上由里子同上)く、規格においても「画集」に満たない「小冊子」を、無償で作成するか、最初に「展示に関する許諾とは別に複製に関する許諾をとり、著作権料に関する取り決めをかわ」(註:志田陽子、同上)したうえ、本書籍の態様で作成するのであれば事件を回避することが出来たのではないかと思われます。
後者の場合、「その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法と程度」(註:岡村久道、同上)の出所明示義務(48条)が課せられ、その趣旨は「制限規定による利用が適法か、著作権者によるチェックを容易化する」(註:同上)制度であり、著作者人格権保護への配慮になります。



参考文献:「新版表現活動と法」、志田陽子、2009年、株式会社武蔵野美術大学出版局、「標準著作権法」、高林龍、2010年、株式会社有斐閣、「著作権法」、岡村久道、2010年、株式会社商事法務、「別冊ジュリスト157号著作権判例百選」、津田憲司、2001年、株式会社有斐閣、
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by artkzr | 2012-02-02 10:05 | 考察