文化政策の今後について

 現在地方自治体は、支出の削減と民間活用を軸に、文化行政のあり方を変えつつある。

その流れの中で、地方自治体の文化行政が今後担うべきことは何か①同時代美術館と②近代美術館の2つのケースについて考察し、それらの変化に対し、従来の受益者としての③地域社会はどのように対応できるかをのべる。

 全国各地の公立美術館の整備が落ち着いた現在、館の運営や活動のあり方が問われている。
厳しい財政事情の下で、指定管理者制度や評価制度の導入を迫られることも多く、専門性を有する人材の確保・活用や、限られた財源の有効活用、企画能力と実行力を高めることなどが求められている。

公立美術館を地域再生の拠点にしようと考える設置者が増えてきたことにより、従来の美術館における、「作品を展示したら、お客さんが来るのを待つ」だけでなく、1つの事業として戦略的に異業種・市民との連携をとることによって受益者の間口を広げ、社会の活性化につなげることが必要である。

① 存命の作家の作品を展示の対象とする場合、存命であるということは、アーティストとのコミュニケーションが期待できる。

例として、90年代後半から全国各地で実施されるようになったアウトリーチの広がりは、アーティストが学校や福祉施設でワークショップなどを行うことで、子どもたちの想像力や創造性、コミュニケーション能力や身体能力の育成などに芸術が大きな力を発揮しうること、高齢者や障がい者の元気回復や生きる力の増進にも芸術が有用であること、アウトリーチが定着することで公立文化施設と地域や市民との関係、文化施設や芸術文化の受益者が広がる。

それは、鑑賞事業と異なる対象を、文化施設や芸術団体の側から戦略的に選ぶことが可能であり、元々芸術に関心のある市民だけではなく、幅広い層の市民や地域に芸術を提供することで、公立文化施設の受益者の間口を大幅に拡大できる効果を有しているということである。

教育現場において、派遣されたアーティストはアートの特性やアーティストの能力を活用し子どもたちの想像力や創造力を引き出すことができる。
このような活動は、諸外国ではしばしば、Arts In Education(AIE)と呼ばれ、現在の日本の教育(知識の獲得を第一義に置く集団的一斉授業方式)では個々の差異をカバーしきれない部分を、博物館という主体的な学びの場としての特性をいかし、幼児・青少年のための教育だけではなく、社会的弱者や社会の表層からドロップ・アウトした成人などその領域は幅広い年齢層へと同時に従来の芸術文化だけではなく教育や福祉まちづくりなど地域コミュニティ全体の活性化にまで拡大できる可能性がある(註:創造都市交流2006事業報告書)

②近代以前の美術館、および物故作家の活動や古美術を紹介する際、機関連携による作品の流動性の促進と教育普及の相互活用が有効である。

なぜなら、それぞれの美術館は立派な作品をもっているが、作品はその館内だけで全てを展示しきれるわけではなく、収蔵庫内で眠り続けるものも多い。

コレクションの交換展や他館との共同企画などは、「資産の流動化」の意味と、博物館の収蔵品の公開の意義を満たすものとして、また、学芸員にとっても新たな学びの機会としても、機関連携をすることは、効果があるといえる。


③そもそも、公立美術館のある地域内には、音楽ホール、図書館、学校、劇場、老人福祉施設、保育園や幼稚園、児童館、病院、観光案内所等、公的なサービスを行なう施設が点在している。

上記にのべるような施設や行政との連携は、芸術文化やアーティストにとって、社会的な価値や位置づけを公共的なものへと変容させる効果があると同時に、地域にとっては教育の活性化、福祉の向上、地域および観光の振興、防災意識の向上等につながるとはいえ、美術館だけでは達成できる事業ではない。

地域社会の他の行政施策である教育、福祉、健康、医療、防災等を、商店街、NPO団体、地域資源美術館のワークショップメンバー、市民ボランティア、アーティスト等の媒介によって市民とつながることは、産業振興、経済政策、まちづくり、地域再生、観光、非営利・公益活動、営利事業への発展や民間企業のビジネスチャンス等、社会とアートを結びつけることによって都市問題の解決や地域社会の活性化をはかることができる。

 美術館は、人々の共有財産である作品を後世に伝えることと同じく、今を生きる人々に対し、その作品の存在が意味を増すための働きかけをするために有効な提携を行いモノの意味を増す出来事を、美術館がコーディネートするという構図が望ましい。

地方自治体の文化行政が今後担うべきことは、教育や福祉の充実、産業の活性化、地域の再生など、文化以外の政策分野において、芸術文化を活用しながらこれまでにない成果を得ることである。


参考文献:創造都市交流2006事業報告書、「これからの公立美術館のあり方についての調査・研究報告書」、2009年、財団法人地域創造、「日経五つ星の美術館」、日本経済新聞出版社、2007年、「いま、地域メセナがおもしろい」、社団法人企業メセナ協議会、2005年、
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by artkzr | 2013-05-12 19:53 | 考察